僧侶の法話

言の葉カード

 4月8日はお釈迦さまがお生まれになった日です。お釈迦さまの誕生には物語があるのです。どういう物語かというと、お釈迦さまは生まれてすぐ七歩歩いたというのです。七歩というのはいったい何か。そこに隠喩(いんゆ)、隠れているものがある。七歩とは六道を一歩超え出るという意味なのです。
 チベット仏教は六道輪廻(ろくどうりんね)思想です。生まれ変わり、死に変わりするということです。善いことをすれば善い所へ、悪いことをすれば悪い所へ行く、というのが基本的な考え方です。善因善果、善行善果、善い行為をすれば善い結果がある。そこには、私たちの固定化された発想というか、私たち人間に身についた考え方があるように思います。お釈迦さまは、その六道輪廻を超え出る、そういう発想を超え出るということを言われているのです。
 七歩歩いたお釈迦さまが次にどうしたかというと、今度はしゃべったというのです。何とおっしゃったかというと「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」という言葉です。「天上天下」とは、この世においてということです。「ただ我一人尊し(唯我独尊)」と続きますが、これは自分がいちばん偉いということではありません。お釈迦さまの存在をとおして、一人ひとりが実は尊いということを表しているのでしょう。生まれによって尊いとか卑しいということではないということです。それが、言語で表現されているのです。
 つまり、そこに人間として生きていると。生命ということですね。その平等性といいましょうか、どんな人にも一人ひとりの人生があり、それは、生まれが良いとか悪いとかではない。一人ひとりに、生まれて生きている意味があるのだということをお示しくださっているのでしょう。ですから、尊い存在なのだということです。自分も尊いかもしれないけれども、隣の人も尊いということです。だから、自分も尊敬しなければならないけれども、隣の人も尊敬しなければならない。そういうことで「尊」ですね。はじめに尊敬ありです。

海 法龍氏
真宗大谷派 長願寺住職(神奈川県)

『苦悩の海をゆく』より
法話 2019 04