著名人の言葉

言の葉カード

 いろいろなことが人生にはあります。面白くないこともたくさんあるでしょう。そんな中でも、そこからどうやって立ち上がろうかとすることが大切だと思います。私の場合、ものを片づける、掃除をすることが割と多いようです。自分の家、自分の部屋、目の前にある物に気持ちを向けることでいつの間にかそれまで鬱々としていた気分がほぐれていきます。目の前のものに気持ちを向けて、言ってみれば「ものに従う」ことが肝要なので、そのものが何であるかにたいして重要ではないのです。片づける対象は何でも良いのです。

 ずっと昔に聞いた話なのですが、ナイチンゲールは「将来のことを考えていると憂欝になったので、そんなことはやめてマーマレードを作ることにした。オレンジを刻んだりしているうちに気分が明るくなっていくのには全くびっくりする」と言っていたそうです。将来についての不安とマーマレードを作ることでは人生においてより重要なのはどちらでしょう。たいていの人は、将来についてのことの方が重要だと考えるでしょう。
 でも、ちょっと待って。普段、疑ったことはなかったけれど本当にそうでしょうか。こんな風に疑ってみることから古来哲学や宗教は始まったのではないでしょうか。人生というものが続く限り、不安や悩みが解消することはないでしょう。それに対してマーマレード作りやものを片づけることが悩みを忘れさせ、気分を明るくしてくれることは疑いのない事実です。

 普段、私たちは意味のある行為や目的のある行為というものに囚われすぎる傾向があるのではないでしょうか。私たちにはまだまだ理解できないことが全宇宙の星の数ほどあります。新型コロナウイルスもその一つです。しかし、今の常識からすれば否定的な評価が与えられる事柄の中にも、人生にとって有意義なことがきっといくらでもありそうです。
 現代はまさしく「手すりなき時代」です。コロナ禍で心が萎えそうになる時もあると思いますが、このような時だからこそ身近なものや日々の作業に目を留め、従ってみるのも良いのではないかと思います。

フローレンス・ナイチンゲール
看護師(イギリス)

宮永 由佳子氏
真宗大谷派 廣際寺(富山県)
『光華』第67号(富山教区坊守会)より
著名人 2021 09