著名人の言葉

言の葉カード

デジタルで制作する作家も増える中、鈴木さんは紙に絵の具で描いている。『しごとば』シリーズも、現場で写真を撮って、忠実に写生するという。全てのモノと丁寧に向き合い、持ち前の粘り腰と訓練、そして時間と手数をかけて描く。

 写真を合成したらいいじゃないかと思われがちですが、以前、写真家の方から「カメラじゃ絶対こういう画は撮れない」と言われたんです。全てのものにピントがばっちり合っているなんて写真ではありえない。ぼくの絵は一個一個、音楽で言ったらモノラルの演奏が全方向からズドンズドンと響いてくるような絵で、「写真にはできない」と言われてうれしかったですね。本当にそういう気持ちで描いているんです。ここにある小さなコップにもきちんとストーリーや役割、良さがあることを何とか絵で表現したいと思っている。だから、そういう局所戦を果てしなく続けていくと、こういう絵になるという感じですね。
 この『しごとば』に続けて『しごとへの道』という本を描きました。パン屋さんや新幹線の運転士、獣医師など。構想を進めていくうちに、人の半生を生半可な気持ちでは描けないと思うようになって、改めて取材してその人の人生を深掘りさせてもらいました。すると本人も忘れていた記憶なんかが色々出てきて面白いんです。描かれているのは特別なサクセスストーリーではありません。取材させていただいた方一人ひとりに、それぞれの道があって、当たり前だけど、オンリーワンの人生だってことを描きたくなったんです。

もちろん突拍子もない愉快な絵本もいっぱいある。『大ピンチずかん』はわが子の日常生活の中からヒントを得た。『す~べりだい』や『ぼくのトイレ』や『ぼくのおふろ』など人気シリーズが並ぶ。子どもたちは絵本で、初めて世界と出会っていく。

 子どもたちが世の中のあらゆるモノと初めて出会う場面が、ぼくはハッピーであってほしいと思うんですね。だからといって、友情とか愛情とか平和とか、大人がこうあってほしいという理想を並べても、現実はそうじゃないですよね。やっぱり世の中って色んなことがあるけど、見方とか接し方によって楽しくもなるし、深みも出てくる。何かや誰かに興味を持つことで人生の価値が見出されることもあると思うんです。そのスタートラインに立つ子どもたちにはワクワク感みたいなものを持ってほしいと思うんですね。だから、美しい絵よりも、「何これ!?」とか「こんなことやってるの?」みたいな、ちょっとミーハーでいいと思うんです。そういう視点から子どもたちの世界が広がっていく絵本をこれからも描きたいと思っています。

鈴木 のりたけ氏
絵本作家

真宗会館広報誌『サンガ』197号より
著名人 2026 01