私がスペインでの生活の中で感じたのは、誰一人取りこぼさない社会。困っていると、たとえ通りすがりでも、「お前大丈夫か」と手を差し伸べてくれましたから。
でも私はそれをなかなか受け取れませんでした。「人さまに迷惑をかけてはいけない」と言われて育ってきた世代ですし、受験にITバブルと、競争の中で生きてきたので、誰かに助けてもらうとか、自分の弱さを見せることなんてできなかった。
そんな私が差し伸べてくれる手を握り返せるようになったのは、私自身が弱い存在になったからです。スペインで言葉がしゃべれない移民という弱者としてのスタートから、孤独な子育てまで、手助けなしでは続けられませんでした―。
社会で生き延びるためには自分の弱さを見せちゃいけないような風潮がありますが、これからの「答え」のない社会では、誰もが主役になれるチームであることが大切。それには、チーム内での信頼と対話が欠かせません。「助けて」と言えることが、物事のスタートなんです。だから、ひとりでがんばらず、自分の弱さも相手の弱さもまるごと認めて、自分自身を含めた誰をも見捨てない。そして「お互いさま」と自ら手を差し伸ばし、また差し伸べてくれる手をちゃんと握る勇気をもつ。そんな柔らかで強い個人の連帯が、これからの社会を、未来を切り拓くと思っています。
湯川 カナ氏
一般社団法人「リベルタ学舎」代表理事
月刊『同朋』2019年7月号(東本願寺出版)より
著名人 2023 04