暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 「利益」を「りえき」と読めば経済観念の損得を表しますが、「りやく」と読めば仏教語になります。「仏や菩薩(ぼさつ)の慈悲、あるいは修行の結果として得られる利益」などを表します。経済観念の「利益」は、比べるという欲望世界の言葉です。何かと比べて得になることだけが利益です。人間は比べて喜ぶ生き物ですが、比べることによって自分自身を傷つける生き物でもあります。仏法(ぶっぽう)の「利益」とは、その「比べる」という人間の欲望を超えさせます。比べる世界は幻想であり、比べられない世界が〈真実〉なのだと逆転させます。逆転されることで、「比べる世界」に一喜一憂しない「利益(りやく)」が与えられるのです。

 私たちは、「比べる世界」が「現実の世界」だと思って生きています。年齢や貧富や美醜や能力など、すべて「比べる世界」です。しかし、百歳で亡くなられた老人と二十歳で亡くなられた若者と、どちらの人生が尊いと言えるでしょうか。それは同じく尊いではないかと、理屈では言えるでしょう。しかしそうは言いつつ、本音のところでは、「やはり百歳の老人のほうがよい」と思っているのです。私たちの目は、とことん「比べる世界」に汚染されています。その汚染されている目を、打ち砕こうとするのが仏法です。とことん汚染されているのであれば、それをとことんまで打ち砕こうとする仏さんの暴力に晒(さら)されるのです。本当の「利益」とは、この仏さんの暴力を受け続けることなのです。

武田 定光氏
真宗大谷派 因速寺住職(東京都)

仏教語 2021 01