年齢を重ねた今だからこそ作れる落語がある—。
芸人の世界というのは、怠けようと思えばいくらでも怠けられる世界なんですけれど、それではダメなんですね。落語家は、何か形のあるものを作るわけではなく、形のないものを演じて観ていただくわけです。努力したら努力しただけ結果がついてくるかというと、そうではないときもあるんですけど、常に努力しておくことはとても大切なんです。
若い頃、横山やすしさんに「マイペースでやらなあかんで」と言われたことがあります。やすしさんは中学を出てすぐに漫才師になられましたので、僕と同じ学年なんですけど芸歴ではだいぶ先輩でした。彼は僕に「マイペースと言っても自分がやりやすいようにしていたらペースが落ちてくる。少し苦しくても速いペースをキープしていかなあかん。そういうペースを作れ」と言われたんです。それにはなるほどと思いましたね。ちょっと生き方を急ぎすぎはったんとちゃうかなと思いますけど、掛けてもらった言葉には励まされました。
桂 文枝氏
落語家
月刊 『同朋』2015年7月号
(東本願寺出版)より
著名人 2020 09