「油断」とは、うかうかと物事をやっていると失敗するから注意しろという意味です。これは仏教語です。この「油断」という言葉を多く使われたのが蓮如上人(れんにょ ※)です。例えば「人間は、いずるいきはいるをまたぬならいなり。あいかまえて由断なく仏法(ぶっぽう)をこころにいれて、信心決定(しんじんけつじょう)すべきものなり」(『御文(おふみ)』二帖目第五通)とあります。ひとのいのちは、いつでも臨終に接しているのだから、怠りなく仏法にこころを留め、信心をはっきりさせなさいと述べています。
この「由断なく」には表層と深層の意味があるようです。表層の意味は、それこそ油断なく心掛けるという意味でしょう。しかし深層の意味は、いつでもこころがそこにあるという意味ですから、人間の意志で左右できることではありません。これは「生活の中に仏法の時間をもつ」のでなく、「仏法の時間の中で生活しなさい」という意味でしょう。人間が意識して油断をなくす時間は一時的ですが、仏法の時間の中で生活していれば、油断など起こりようがないのです。
- 蓮如(1415~1499)
- 室町時代の浄土真宗の僧侶
武田 定光氏
真宗大谷派 因速寺住職(東京都)
仏教語 2020 11