今年もお盆がやってまいります。多くの方々が故郷に帰り、再会した親兄弟姉妹とともに、先立ったご先祖を偲(しの)んでお墓にお参りしたり、交歓の時を持たれることでしょう。それは、私たちの心の奥に潜む〈素朴な宗教感情〉の発露でしょうか。
しかし、故郷でもたらされるのは、快いことばかりではありません。肉親なるがゆえの感情のもつれなどもあったりして〈宗教感情〉が萎んでいき、虚脱感や淋しさだけが残るということもまた経験することです。それでもお盆の季節になると、私たちの心は帰巣本能がはたらくように故郷へ向かいます。それは〈私はどこからきたのか〉を尋ねようとしているからだと思われます。
経典には、混迷する私たちの真相を「生じて従来するところ、死して趣向するところを知らず」(『仏説無量寿経(ぶっせつむりょうじゅきょう)』)と教示しています。〈どこから来たのか、どこへ行くのか〉とは、〈私とは何者なのか〉という問いでしょう。
バブル経済のはじけた頃から、〈自分探しの旅〉が始まりましたね。何が本当の私なのか、それがわからなければ、私の人生は虚しいではないかという心の奥深くからの問いに促されて旅立った私たち…。しかし、〈本当の私〉は見つかったのでしょうか。他人と比べて見る目しか持ち合わせない私が見つけたのは〈居心地の悪い私〉でしかありません。
親鸞聖人は〈よきひと〉法然上人(ほうねんしょうにん ※)の導きによって本願念仏(ほんがんねんぶつ)の教法に出遇(あ)い、〈本当の私〉を確立されたのでした。教法を生きる〈よきひと〉との出遇いは、内奥の〈宗教心〉を目覚めさせ、やがてこの心が教法との出遇いを実現し、〈本当の私〉の確立に向かうのでしょう。
お盆の一日、お寺を訪ねてご住職と〈自分探し〉をしてみてはいかがでしょうか。きっと、素敵なお盆体験となることでしょう。
- 法然上人(1133~1212)
- 日本の僧で浄土宗の開祖。親鸞の思想に影響を与えた七人の高僧のうちの一人。
『仏説無量寿経』
丸田 善明氏
真宗大谷派 宗通寺前住職(岩手県)
『真宗の生活』2007年8月(東本願寺出版)より
教え 2020 08