著名人の言葉

言の葉カード

 子どもたちの吸引力、それを生きる力に変えていく力というのはすごい。新鮮な目覚めにあふれている。それをキャッチすることが大切です。詩のワークショップや授業で一番気を付けていることです。感性、人間の感じるこころというのは言葉からではない。言葉に魂があり、必ず実感、体験が関わっている。そこから言葉を子どもたちから引き出してあげると、すごく説得力のある言葉が現れてくる。それが大人たちのこころを揺さぶるということがあります。
 震災を経験して、それに遭遇したことがありました。石巻の仮設住宅、避難所で暮らしていた、当時小学校5年生の男の子の詩です。「ありがとう」という詩であり、その内容というのは、全国から支援の手があって、支援物資があって、例えば「扇風機ありがとう」、「色鉛筆ありがとう」、「ランドセルありがとう」。当時、石巻で仮設住宅にいて、たくさんの支援とボランティアの方に「ありがとう」という言葉を伝えたいという思いで書かれた詩でした。「焼きそば作ってくれてありがとう」、「勉強を教えてくれてありがとう」、「励ましの言葉ありがとう」。その一番最後に「おじいちゃんを見つけてくれてありがとう」という詩があった。
 この「おじいちゃんを見つけてくれてありがとう」というのは、津波で流されてしまって、そして行方不明になった祖父を見つけだしてくれてありがとう。最後に「ありがとう。さよならすることができました」で言葉が終わっているんです。
 当時、この詩を石巻や東北、宮城県の方々は、こころの支えにしているところがあって、たくさんの行方不明者、そして津波で流された方がいらっしゃったご家族が、その詩を大事に持っていたということがありました。子どもの言葉が、そういう状況において、どれだけ大人のこころを励ますかということを、私はその詩から教えてもらったように思います。

和合 亮一氏
詩人、国語教師

サンガネット特別シンポジウム
「人間を支えるモノは何か」より
著名人 2019 01