著名人の言葉

言の葉カード

 大学1年生のとき、初めて海外に出かけアフガニスタンの難民キャンプに行った。そこには世界の貧困を凝縮したような光景があった。道の両側に数え切れない物乞いが座っていた。眼球を二つとも失った少女が「1ルピー、1ルピー」と言って近づいてきた。石井さんはたまらなくそこから逃げた。
 もの書きをめざしていた石井さんは、大学卒業後、もう一度海外へ行って、物を乞う人々と触れ合い、語り合ってみなければならないと思った。20年前のアジアだ。不自由な身で生きる人々の姿は、傲慢(ごうまん)な思い込みや、ありふれた先入観を打ち砕いた。その経験が『物乞う仏陀』というデビュー作となった


 「それまでニュースというものや新聞による報道は100%正しいものだと思い込んでいたんですね。けど、実際は全くそんなことは1%もなくて、新聞で得たものを現場に行って聞くと、全部ひっくりかえされるわけですね。
 例えば、栄養失調でおなかを膨らませている子どもは「かわいそうで死んでいく子ども」ばかりではないのです。栄養失調で生きている子どもって、おなかが膨れながらサッカーをするんですよ。つまり生きていくことに対して前向きでないと、生きていくことができないのです。
 人間が生きるということはそういうことなんですね。その人間の生きることへの力に出会ったときに、ぼくは無条件で感動したんです。そしてその感動をもの書きの人間は伝えるしかないと思ったのです。」

石井 光太氏
作家

真宗会館広報誌『サンガ』181号より
著名人 2024 03