暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 「おはようございます」から始まって、「おやすみなさい」まで、一日の暮らしの中でも幾度となく交わされる「挨拶(あいさつ)」。世界では様々な言語がありますが、挨拶の言葉の無いものはないでしょう。人と人の間をつなぐ言葉として挨拶があり、加えて挨拶に伴う動作もあります。私たちは挨拶の言葉とともにおじぎをします。インドでは挨拶の相手に手を合わせます。チベットではペロリと舌を出すそうです。モンゴルではくんくん匂いを嗅ぎ合うそうですし、ニュージーランドでは鼻と鼻をくっつけるようです。これもいろいろあります。握手をするとか、軽くハグするというのもよく見かける挨拶です。

 この「挨拶」という言葉ですが、「挨」は「うつ」「おす」「おしすすめる」「せまる」という意味を表し、「拶」は「せまる」「せめる」「押し返す」という意味です。禅の修行においては「一挨一拶(いちあいいっさつ)」と表され、師が修行者の悟りを見定め、その浅いか深いか、背いていないかをはかる厳しい緊迫した言葉のやり取りと行いを表した言葉が「挨拶」の語源です。
 禅仏教とともに伝わり、現在は修行の場を離れて日常的に使われるようになりました。それで「挨拶程度の付き合い」という社交儀礼的な行為を表すことにもなりました。また、この人には世話になったしこれからも良くしてもらいたいという私たちの心の中のそろばん勘定によって、深々と頭を下げ丁寧に挨拶をしたり、相手を軽く見ている場合は、「やっ」と首をふる程度の挨拶をしたりと、交わす相手によって態度を変えることにもなります。
 こうした私たちの態度が、むしろ「挨拶」という言葉から、厳しく問われているのかもしれません。

四衢 亮(よつつじ あきら)氏
真宗大谷派 不遠寺住職(岐阜県)

仏教語 2024 03