著名人の言葉

言の葉カード

 どこで息を引き取ろう。70年前、家で息を引き取った人がおよそ85%。10年前、家で息を引き取った人およそ13%。病院で息を終える人がどんどんと多くなった。
 街角で、「どこで息を引き取りたいですか?」と聞いてみる。「死にません」と聞こえたが、「知りません」だった。縁起でもない、そんなこと考えたことないわ。高齢の人に聞くと答えてくれた。全国どこで聞いても同じ答え。「家がいい」が70%で圧倒的人気。ホスピスと答える人も増えている。「家で息を引き取ること、ほんとにできますか?」と問い返すと、これも全国的に同じ答えで「きっと無理」、が70%。望んではいるが現実的には無理、と多くの人が思っている。その理由、①家族に迷惑をかけたくない、②息子夫婦も共働きで老々介護だから、③いざという時に困る、④ひとり暮らしなので。

 さあ、どこで息を引き取ろう。急性心筋梗塞や脳卒中で、救急車で運ばれた総合病院で終わったら、悲しいけど却(かえ)っていいのかも知れない。救われて、寝たきりとなって永らえたら、嬉しいけど却って困るかもしれない。いろんな形の老人施設があって、そこに入所するという選択をしないといけないかも知れない。高齢化が進んで、その施設で肺炎やがんの末期や心不全に腎不全などで限界を迎えた時、昔は救急車が呼ばれ総合病院へ送られたが、最近では老人施設そのものでの看取りが増加している。家族に代わってお世話してくれる介護士たちに見守られて息を引き取るのも増え、それもいいことかも知れない。
 「死ぬときくらい好きにさせてよ」という気持ちもあるかも知れない。いや、その気持ち、もっと育って欲しいとも思う。思うようにならないのもほんとだけど。

 できたら、と思う割合がある。大袈裟(おおげさ)に言うと、一人一人の日本人の、人生への感謝度が上がっていくための、息を引き取る場所の割合。病院(ホスピス含む)60%、在宅(わが家)25%、老人施設(各種の)10%、その他(戦場は望まぬ)5%。
 死の文化が豊かに育つために。

徳永 進氏
医師

『野の花診療所の窓から』(真宗会館リーフレット)より
著名人 2021 05