暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 ひとは大変な苦労をしたとき、「四苦八苦したなぁ」などと漏らします。「四苦八苦」はもともと仏教語です。「四苦八苦」とは「①生苦(しょうく)、②老苦(ろうく)、③病苦(びょうく)、④死苦(しく)、⑤愛別離苦(あいべつりく/愛するものと別れる苦しみ)、⑥怨憎会苦(おんぞうえく/憎しみ合う苦しみ)、⑦求不得苦(ぐふとっく/欲しいものが手に入らない苦しみ)、⑧五蘊盛苦(ごうんじょうく/人間存在そのものの苦しみ)」のことです。たまたま運が悪かったから「四苦八苦」に出あうわけではありません。「四苦八苦」にあわないひとは、この世に一人もいないということです。そこで絶望するか、そこから仏道を求めるかの違いだけがあるのです。
 お釈迦さまは「老・病・死を見て世の非常を悟る」〈『仏説無量寿経(ぶっせつむりょうじゅきょう)』〉と語られています。老・病・死とは、まさに「四苦八苦」を意味しています。突き詰めて人間のいのちを見つめれば、人間の死の根本原因は「誕生(生)」にあるのです。死の条件は、病気や事故などがありますが、根本原因は「生」以外にないのです。お釈迦さまの求道は、この人間の生々しい現実をごまかさなかったところから始まります。

武田 定光氏
真宗大谷派 因速寺住職(東京都)

仏教語 2020 07