著名人の言葉

言の葉カード

 児童文学作家の灰谷健次郎氏は『太陽の子』という小説の中で、「人間が他の動物とちがうところは、他人の痛みを、自分の痛みのように感じてしまうところ」「だからつらくて苦しい」「いい人というのは、自分のほかに、どれだけ、自分以外の人間が住んでいるかということで決まる」と書いています。灰谷氏は「人間とは何か」を語っているのだと思います。つまり、人が人であり続けるためには、何人の他者が自分の中に住んでいるかということで決まるのです。しかし、私たちは、その他者を追い出し、苦しさを回避してきたために人間関係が希薄化してきたのだと思います。
 今回、新型コロナウイルスの感染拡大の中で、トイレットペーパーが無くなるということが起きました。不正確な情報の拡散が原因といわれていますが、個人による買い占めが起こったのです。まさに、自分さえよければいいという行動と言えるのではないでしょうか。無くなったのはトイレットペーパーではなく他者性です。自己保身のつもりが、実は自らを一番危険なところに追いやっているのです。新型コロナウイルスは、いずれ解決しますが、他者との関係性を失うという病の方こそ、私たちは問わなければならないと思うのです。

奥田 知志氏
NPO法人「抱樸」理事長

同朋新聞2020年5月号
「人間といういのちの相」より
著名人 2020 07