著名人の言葉

言の葉カード

 不登校は、不登校になっている個人の問題ではなく、不登校を作ってしまう社会の不自然さ、そして社会に生きる中で不登校になった時に、大丈夫だよと言えずに、その人を責めているという社会の問題だと思います。
 私が学校に行かなくなって気づいたことの一つは、将来のために生きるのではなくて、今を生きたいと思ったことです。
 学校の中で変な校則に縛られて、必要かどうか分からない勉強をして、そして人間関係がぎすぎすして、いじめる、いじめられる中で、これが将来のためと言われても全然価値を見いだせませんでした。ですが、不登校になって学校に行かない子たちの集まりの場に行ったとき、そこには今を一生懸命に生きている仲間の姿がありました。スタッフの大人たちもその子の今を支えるということに、本当に必死になっていました。

 発達心理学者・浜田寿美男さんは、現在の子育て観についてこうおっしゃっています。「いまの子育て観、教育観では『子どもは大人になるための準備の時代』であるかのように思われていますが、そもそも人生に準備の時代というものがあるでしょうか。子どもは『子どものいま』という本番を生きています」と。
 大事なのは、子どもが「いま」、幸せかどうかです。死にたいほど行きたくない学校へ行くことや、まったく手につかない宿題をするのは、あまりに「いま」が犠牲になっています。「いま」を大切にする視点が子育てや教育においても大事だと思えてなりません。子どもが学ぶ場所、育つ場所はどこかということを根本的に考え直し、多様性がある学びの場を提供できるように流動性を高められるよう取り組んでいきたいですし、子どもたちの「いま」の声を聞き続けていきたいと思います。そして、「ひとりじゃない」ということを伝え続けたいと思っています。

石井 志昂氏
NPO法人 全国不登校新聞社 編集長

「同朋新聞」2020年11月号(東本願寺出版)より
著名人 2022 09