著名人の言葉

言の葉カード

 目の前にあるのは、ひとつのお茶碗。茶道で抹茶を飲むためのティー・ボウル、小さなどんぶり。このお茶碗が今、私を別次元へとゆっくり引っ張ってくれています。
 テンション高めで英語交じりのトークを繰り広げてきた私、ルー大柴がジャパニーズの極みであるティー道、つまり茶道に挑戦してから早10年以上が経ちました。そうして、ここ数年、「歳とったんじゃない? ルーさん、丸くなったね」と言われます。
 とっても心外です。
 「まだまだ若いもんには負けーん!」と意地を張る程度のオッサンには、確かになってますけれども。ただ、昔の自分との違いは自分自身で実感しています。ムダに肩肘をはらない、ラクな姿勢で生きる人間に変わりました。それは加齢のせいでなく、あくまでティー道のおかげです。目の前のお茶碗を眺めて、「どんな産地で作られ、どんな想いが込められているんだろう」と心を馳せることができるようになったから。

 ティー道を知る前、お茶碗はただのお茶碗でしかありませんでした。今は、お茶碗の背景を知りたくなって、知っている人がいれば尋ね、自分でストーリーを膨らませます。途端、お茶碗が愛しい存在になるんです。
 ものだけでなく、人も同じ。こんにちは、さようなら、と挨拶して終わるのでなく「この人の目に、世界はどう映っているのだろう」と、ときおりイメージしてみます。
 同じ空間にいても、相手の立場に立ったつもりで周囲を見直すと、急に新鮮味が増して楽しい気分に。それらはどれも、自己主張の強い欧米かぶれのキャラクターで芸能界を渡り歩いてきたルー大柴が、一念発起してティー道の教室に通い、おもてなしの極意を少しずつ学んできた成果です。
 ティー道のおもてなしは、人と人の間に生まれる優しい気持ち。相手を喜ばせようとする、思いやりなのです。
 目に見えるものではないから、英語の勉強のように「今日は30単語覚えた!」なんて分かりやすい達成感は得られません。学んだ端からダイレクトに結果が出るなんてことは、けっしてありません。でも、ティー道だからこそ会得できる物事は、確実に存在します。もちろん、何も知らない最初はカタチから入るでしょう。何度も繰り返すうち、あとから心が付いてきますので、ご安心を。ハラハラ、クヨクヨ、イライラ、オドオドしていた日常の自分が、すーっと穏やかになっていく。今ではお茶碗を前にすると、心を整えるスイッチが自動的に入るようになりました。
 師範の許状(きょじょう)をいただくまで続けてみて、ティー道は生きるヒントの宝庫であることがようやく分かったのです。

大柴 宗徹(ルー大柴)氏
茶道師範

『心を整えルー』(自由国民社)より
著名人 2024 02