著名人の言葉

言の葉カード

 汁飯香(一汁一菜)のすごいところは、毎日食べても飽きないことです。それは人工的なものがひとつもない、おいしさ、栄養、健全性、そのすべてを自然に依存しているからです。人間が作るものって、すぐ飽きてしまうんですね。和食では「混ぜる」っていうのはないんです。「和える」です。日本の食文化を伝えるフランスの講演会で、和食文化の「和える」とフランス料理文化にある「混ぜる」を比較して解説しました。混ぜるというのは、複数の個体、液体をミックスして別の何かを作り出す技術、それは科学文化文明の始まりです。一方、和えるは「ハーモニー」と訳されました。それぞれの違いを尊重して、互いを補い、おいしさを作り、自然の調和をみるものです。その違いをフランス人はとてもおもしろがり、よく理解してくれました。

 私はずっと料理人として、それこそ超一流の料理人になりたいと思っていました。そんなとき、「民藝」という世界に出会って、感銘を受けたのです。一般の民衆が日々の生活に必要とする品の美しさを発見した柳宗悦の民藝の思想と、命をつくる仕事である家庭料理はつながっていると気づいたのです。家庭料理に美しい世界があることに気づきました。
 「料理する、すでに愛している。料理食べる、すでに愛されている。これが家族」です。一人暮らしでも、自分で料理する。自炊すれば、自分を大切にする、守ることになるでしょう。どうぞ一汁一菜でけっこうです。どうぞお料理してください。

土井 善晴氏
料理研究家

真宗会館広報誌『サンガ』174号より
著名人 2022 03