僧侶の法話

言の葉カード

 世の中に生きているとさまざまな物差し、価値観が押し寄せてきます。例えば病気になった人にはものすごく冷たい。あるいは歳を取って働けなくなったりすると、ものすごく冷たい。そんな世の中ですね。「働けない者がいつまで生きているのだ」と言わんばかりの雰囲気です。そうすると、お年寄りはだんだん「自分は生きておったらいかんのかな?」という気持ちにさせられてくるのです。
 それに対して、「そうではない。世の中の物差しのほうが実は歪んでおるのだ」と教えてくださるのが仏法(ぶっぽう)です。一人一人、誰とも代われないいのちを最後の最後まで生ききっていくことが何よりも大事なのです。そのことを仏さまは照らし出してくださるし、その教えに触れるからこそ現実を一歩一歩歩(あゆ)む勇気をいただくのです。
 浄土の教えはあの世の話ではありません。あの世に行ってからのことではなくて、この世を生ききっていくための教えなのです。この世が濁(にご)っているからこそ教えが要(い)るのです。大事なものが見えにくいからこそ、この教えが必要なのです。

一楽 真氏
大谷大学教授

『この世を生きる念仏の教え』(東本願寺出版発行)より
法話 2020 01