僧侶の法話

言の葉カード

 洗脳(マインドコントロール)というのは、自分の自由な考え方が心理的に操作され、正しく見たり批判することができなくさせられることです。しかし、本来の宗教体験とは、自分の考えや価値観、それに基づく進み方が通用しないことに出会って、これが自分だと思っていたことが大転換する、言い換えればそれまでの自分が崩れてしまう経験です。そして、そこから、揺るぎない真実に立脚した歩みが始まっていくのです。
 世の中には、宗教の顔をしたお金集めがあります。いわゆる怪しい宗教です。その特徴は、まず、「これを信じなかったら不幸になるぞ」と脅して勧誘する。次に、法外な献金を要求する。最初はごく少額でも、どんどん膨れあがっていく場合もあります。そして三つ目は「これを信じれば、あなたの願いが叶います」と近づいてくる宗教です。
 意外に思うかもしれませんが、本来の宗教は、そういう自分中心の欲が争いや不和を引き起こして自他を傷つけていたと気づかせてくれるものです。さまざまに縛られ閉塞している状況に気づいて、それが起因する元と目指すべき方向を知ることで、さまざまな課題を抱えながらも安心していきいきと生きる道が開かれます。苦悩している自分が、自分を超えた世界から願われ呼びかけられていたと気づいたとき、現実は違って見えてきます。

真城 義麿氏
真宗大谷派 善照寺住職(愛媛県)

『仏教なるほど相談室』(東本願寺出版)より
法話 2021 12