結局、動物の感性はデータや理屈で割り切れないじゃないですか。例えばアザラシやカバを観察したデータというのは、あくまでデータなんですよね。直接会話をして知る、感情の入ったものではない。しかし、人間は動物をそういうデータで理解したような気になっている。そんなデータでうちの園にいるカバの百吉の感性がわかるのかというと、わからないですよね。ですから動物園は、動物のデータでは見えない部分、感性やいのちを感じられる場所でもあると思うんです。
大事なのは、生き物がいる空間はこんなにも居心地がいいんだと感じられること。また、自分の優しさや眠っていたものが、ふと発揮できるような環境があるということに気づくことですね。そうなったらきっと動物園に来て、すごく心地よくなる。そして例えば困っている人に声を掛ける気持ちがふと起こって、家に帰っても普段の生活環境の中でその気持ちが生き続ける。そんなことも起こるかもしれない。そういう繰り返しが皆さんの中で起こったら、今の世の中が、誰かのせいにするとか、お金で解決するという息苦しい世の中ではなくなっていくのかなと思います。
僕は付加価値さえ見つけられれば、今の世の中のままでも幸せになれるかもしれないと思っているんです。「優しさの付加価値」といいますか、例えばそよ風が吹き、木の葉っぱの音が“さぁぁー”と聞こえて、秋を感じたり、スズメが“ちゅんちゅん”と鳴いている声を耳にして、自分もふと優しい気持ちになれる。そんな感性を育てたいんです。今、本当にそういうことが感じられないですよね。それをどうにか動物園で、ということです。
坂東 元氏
北海道 旭山動物園園長・獣医師
「同朋新聞」2018年1月号(東本願寺出版)より
著名人 2021 10