暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 「大丈夫だよ、安心して」などはよく使う言葉ですね。これはもともと仏教語です。「大丈夫」とは「偉大な人・菩薩(ぼさつ)」等を意味します。しかし、「一寸先は闇」と言われる日常生活だからこそ、「これがあれば大丈夫」と言えるものが欲しいのです。親鸞聖人は、それを「信心を一心(いっしん)という、この一心を金剛心(こんごうしん)という」(『末燈鈔/まっとうしょう』)と述べています。ダイヤモンドのように堅い信心があれば、何がやってきても大丈夫だというのです。それを聞いて、金剛心とはどんな暴風にも絶える岩石のようなイメージを持ちました。ところが、金剛心を説く一方で「柔軟(にゅうなん)」も説くのです。
 親鸞聖人は「この光に遇(あ)う者は、三垢(さんく)消滅し、身意柔軟(しんいにゅうなん)なり」〈『教行信証/きょうぎょうしんしょう』(真仏土巻)〉と言います。この光とは阿弥陀(あみだ)如来の光明です。この光に遇う者は、「三垢消滅」ですから、貪欲(とんよく)・瞋恚(しんい)・愚癡(ぐち)という三つの垢(あか ※)が消え失せ、「身意柔軟なり」と。身も心も柔らかく柔軟性が生まれるというのです。
 譬(たと)えれば、これは水の性質ではないでしょうか。水は柔らかく、器の形とひとつになります。ただし水という性質はひとつも変わることがありません。どんなものにも従っていけるのは、水という性質を変えない不変性の強さです。

※仏教には「三毒の煩悩」という言葉があり、人間がもつ「貪欲(むさぼり)・瞋恚(怒り)・愚癡(ねたみ、そねみ)」の心を表す。

武田 定光氏
真宗大谷派 因速寺住職(東京都)

仏教語 2020 05