暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 お寺に伝わる笑い話。豆腐好きの和尚さんは、毎日小僧さんに豆腐を買いにいかせました。途中に荒物屋さんがあって、ご主人が毎日小僧さんに声をかけるのです。「やぁ小僧さんこんにちは、どちらへ」「はい、和尚さんのお使いでお豆腐を買いに行きます」「そうですか。それはお気をつけて」という具合です。
 だんだん嫌になってきた小僧さんは困って和尚さんに相談しました。「あの荒物屋さんのおじさんが、わかっているのに毎日行先を聞くのです。黙らせる方法はありませんか」「そうかそれなら、私は仏道修行の身、この道を歩んで浄土へ参りますと言ってみなさい」「それはいい」と言って、勇んで出かけました。
 いつものように荒物屋のおじさんが声をかけます。「小僧さんどちらへ」。待ってましたと小僧さんは「道を歩んで浄土へ参ります」と言いました。おじさんはびっくりして目を丸くしました。そして尋ねたのです。「浄土へは何の為に行くのですか」。今度は小僧さんがびっくり、それは聞いていません。下を向いてもじもじしながら小さな声で答えました。「浄土へ豆腐を買いに参ります」。

 パキスタンの天親(てんじん ※)と中国の曇鸞(どんらん ※)は、「浄土」とは五つの門だと表しました。浄土の世界が始まる近門(ごんもん)、たくさんの人と出会える大会衆門(だいえしゅもん)、浄土の屋敷の門である宅門(たくもん)、さらに浄土の部屋の入り口である屋門(おくもん)、そしてそれに続く門が人間の迷いの現実に還る園林遊戯地門(おんりんゆげじもん)です。
 そうです。浄土は現実を離れて往きっぱなしになって座り込む世界ではないのです。浄土は、仏様の目覚めの教えを受けて、人間の迷いの世界から一歩も身を引かず、迷いを問題にして生きる私を支える世界なのです。

天親(400~480年頃)・曇鸞(476~542)
…ともに親鸞の思想に影響を与えた七人の高僧に数えられる。

四衢 亮(よつつじ あきら)氏
真宗大谷派 不遠寺住職(岐阜県)

仏教語 2024 09