暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 「終わったー、終わったー!」。男の子がそう呼びながら泣いています。この情景を今でも時々思い出すことがあります。北海道に仕事で出向いた折、夕方少し時間があったのでホテルの部屋でテレビを見ていたのです。3月の終わりで、ローカルニュースでは4月から新しい出発をする人を空港で送る様子がレポートされていました。
 東京の大学へ入ることになったお兄さんを、家族みんなで見送りに来ておられました。お兄さんを乗せた飛行機が飛び立った瞬間、高校一年の弟さんが「終わった」と泣き出したのです。これまで、兄弟一緒に家族と過ごす日常がありました。朝は一緒に学校に出かけ、帰れば皆がそろって食卓を囲む、平凡でも温かな家庭生活です。それがずっといつまでも続くように思っていたのです。
 でもお兄さんが大学に進学し家を離れることになりました。もちろんお盆やお正月には帰省するでしょうが、大学を終え都会で就職すれば、これまであったような日常は、もう二度と来ないのです。それで「終わったー」と声に出して歎(なげ)いたのです。その心の内がよくわかります。誰もが経験することだけに、その気持ちに胸うたれました。
 ずっとこの私が、この生活が続くように思っていますが、それは必ず終わったり変化していきます。私や生活だけでなく、自然も移り変わり、物も壊れていきます。常ならぬ今を私たちは生きています。それを仏教は「諸行無常(しょぎょうむじょう)」と表します。それは儚(はかな)く脆(もろ)いと歎くのではありません。ずっと続くように思っていた夢を脱して、二度とない〝今・ここ〟にしっかり立つという目覚めを表しているのです。

四衢 亮(よつつじ あきら)氏
真宗大谷派 不遠寺住職(岐阜県)

仏教語 2024 06