仏教の教えについて

言の葉カード

 不確かなものを真実だと思い安心したり、逆に精一杯生きても安心できない世界を「彼岸」(浄土)に対して「此岸(しがん)」(穢土/えど)というのでしょう。自分中心のものさしで物事を考え、そのことにしばられる世界。言い換えれば、何事も自分が中心にいないと安心満足できない世界です。
 では「彼岸」といわれている「浄土」とは、どのような世界なのでしょうか。天親菩薩(てんじんぼさつ ※)が著された『浄土論』には「広大無辺際(こうだいむへんざい/広大にして辺際なし)」、広く大きく端っこがない世界と説かれています。中心にいないと安心満足できない世界は、端っこを作り出します。その世界には、中心で生きられずに端へ追いやられる人が必ずいるのです。
 「みんなが中心に」という考えが、端へ人を追いやる世界を作り出します。浄土とはみんなが中心になる世界ではなく、端へ追いやられる人がいない世界なのだと思います。
 お彼岸は亡き人と、縁ある人と、私と、その浄土という世界で出会いたいという願いを確かめる大切な仏事として、脈々と受け継がれてきたのではないでしょうか。

天親(400~480年頃)
インドの僧。親鸞の思想に影響を与えた七人の高僧のうちの一人。

『浄土論』(天親)

松扉 覚氏
真宗大谷派 本泉寺(石川県)
小冊子『お彼岸(2019)』(東本願寺出版)より
教え 2022 03