著名人の言葉

言の葉カード

 育児というのを大人が一方的に子どものために何かしてあげることだと捉えると、子どもの育ちへの全責任を大人が背負っているとか、大人がこうしてあげれば必ず子どもは育つとか、逆にこうしないと子どもの発達がうまくいかないといった発想になりがちです。しかし、育児とは大人と子どもが共同で構成するものであって、大人もまた子どもに教えられながら、関わりをうまく調整していくことが最も大切なのです。

 よく話題になることですが、育児や保育の現場で大人が子どもの発するシグナルを見落としたり、読み違えてしまうといったことがありますね。しかしそうした失敗が悪いことかというと、そうでもなくて、結局はその失敗の後にどういう対応が続くかということが重要なわけです。例えば、子どもが何かしてほしいと思って泣いても、大人が何も対応しなかったらどうするか。もちろん、不満が高まってより大声で泣くでしょうが、次には大人が気づいてくれるよう、もっと巧みにコミュニケーションを取ろうとするかもしれない。これは、子どもにとって貴重な体験です。また、大人の方も子どもが発するシグナルを読み違えたことに気づいて、修復する中で子どもとのコミュニケーション能力を高めていくわけです。
 そんなふうに、失敗の後の修復をとおして、子どもも大人も育っていく。そういう意味で、育児とは子どもと大人の共同構成なのです。

遠藤 利彦氏
東京大学大学院教授

月刊『同朋』2017年5月号(東本願寺出版)より
著名人 2022 04