仏教のどのような点が、このように言えるのでしょうか。この言葉が著わされた書物の中では、以下のように記されています。
「仏教は人間探究の教えである。しかも…中略…人間の現実と本質をば人間の内側から把えようとする。この点からいえば仏教はすべて人間学の性格をもつものである」
ここには、人間が作り出す時代や社会という現実とその根底に存在する不変的な本質とを、「外側」ではなく、「内側」からの理解を通して探究するところに仏教の特徴がある、と述べられています。重視されているのは、人間が生み出す現実を理解しようとする際、外面的な要因ではなく、人間存在の「内側」に潜む問題に向き合う姿勢です。
例えば、私たちは友人関係がうまくいかない時、表面上の言動などにその原因を探して、それが解決すればうまくいくのでは、と思うことがあります。しかしこのような見方では、自分やその友人を深く理解することは難しいでしょう。なぜ友人は、あのような言動をしたのか。私はなぜ、それを受けとめられないのか。私と彼は、なぜ互いに歩み寄れないのかなど。このような人間関係の難しさについて、相手への非難に終わるのでなく、自分を責めるのでもなく、相互の「内側」に存在する課題を含めて人間関係を理解しようとすること。そのことが、人間関係の理解にとって不可欠なのだと思います。
こうした視座から、日々経験される自分や他者との関係を振り返ることで、私たちは人間としてより豊かに深く生きるための大きな糧(かて)を得ることができるのです。
『仏教学序説』
大谷大学HP「きょうのことば」2015年5月より
教え 2018 11