著名人の言葉

言の葉カード

 思うようにいかないという現実の前では、自分の輝かしい理念は崩れる。じゃあそこを逃げ出すかというと、逃げ出すわけにはいかない。目の前の患者さんも、それに関わる自分も理念ほどきれいな人間ではない。新たな難渋が次から次へと出てくる。でも、不思議なことに、臨床はその難渋に支えられているんですね。
 死は避けたいものであるけれども、パートナーですし、それあればこそということもありますし、ご苦労だったということもあって、敬意というのが自分の中からふっと湧いてくる。そういう気を起こさせるものなんですね、死は。無抵抗に、そのものを受け入れられて、そこに横たわっておられる。言葉は悪いですけど、あの頑固じじいもこんなに謙虚だったかと。そういうことも含めて、おのずと敬意というものが湧いてくる。いいよ、死、ご苦労さまでしたということですね。

徳永 進(内科医)

「サンガ」№117より
著名人 2018 01