玄関のない家はないでしょう。玄関はどのお宅にもあります。しかし、「玄関」は元々仏教語だったのです。もとの意味は「玄妙(げんみょう ※)な道に入る関門」です。つまり悟りへの関門ということです。
玄関は内と外を分ける扉です。外へ出ていくところであり、外から内へ入るところです。出ることと入ることの両方を成り立たせる場所が玄関なのでしょう。出るだけの玄関もありませんし、入るだけの玄関もありません。入と出を共に成り立たせることが「玄関」のはたらきなのです。
親鸞聖人の著書に『入出二門偈頌文(にゅうしゅつにもんげじゅもん)』があります。"入門と出門の二つのうた"と読めます。しかし、これは「入る門」と「出る門」の二つの門があるということではないように思います。むしろ、ひとつの門に二つのはたらきがあるといっているのでしょう。つまり「浄土へ入るはたらき」と「浄土から出るはたらき」の二つです。
そういえば、「この世」を超え出る宗教はたくさんありますね。「この世」を超え出て「あの世」なる世界へ行く。しかし「あの世」で止まってしまいます。もう一度「あの世」を超えるという課題が残ります。『ブッダのことば』(※)には「この世とかの世をともに捨てる。あたかも蛇が古い皮を脱皮して捨てるようなものである」と繰り返し語られています。「この世とかの世をともに捨てる」という<永遠の課題>が大切に思われます。
- 玄妙
- 道理や技芸などが奥深く微妙なこと。
趣が深くすぐれていること。
- 出典『ブッダのことば-スッタニパータ』
- 中村元訳 岩波文庫
武田 定光氏
真宗大谷派 因速寺住職(東京都)
月刊『同朋』2001年4月号より
仏教語 2018 04