

若い人たちのあいだで「セルフラブ」が流行っているようで、いいことだと思う反面、「セルフ=自分」に囚われすぎないようにねとおせっかいをやきたくなってしまうところもある。ぼく自身が若いころに通った道だからだ。
ぼくの時代、それは「自分探し」だった。
あれは大変だった。自分の奥へ入っていけばいくほど日は当たらないし、じめじめ湿っているし、「どこまで行っても終わりがないな」と気づくのに何年かかかった。
自分なんて他人だ、と思っているくらいが意外と調子がいい。
自分でコーヒーを淹(い)れて「あ、ぼくにコーヒー淹れてくれるんですか、意外といいとこありますね」なんて思っていると、それはもうセルフラブではないか。
勤め先で理不尽なあつかいを受けている友人にそんな会社辞めなよといくら論(さと)しても言うことを聞いてくれなかったが、「じゃあ、あなたの友だちがおなじ環境にいたらなんて言う?」と尋ねると「辞めろって言う!」と即答した。
他人だ、と思っているくらいが判断が鈍らない、ということはたしかにあると思う。
森泉 岳土(もりいずみ たけひと)氏
マンガ家
月刊『同朋』2024年7月号
(東本願寺出版)より
著名人 2025 06