僧侶の法話

言の葉カード

 「凡夫(ぼんぶ)はもとより煩悩具足(ぼんのうぐそく ※1)したるゆえに、わるきものとおもうべし」(『親鸞聖人血脈文集/しんらんしょうにんけつみゃくもんじゅう ※2』『真宗聖典第二版』727頁)

 我々は、善いこともしているようにも思いますが、親鸞聖人は「わるきものとおもうべし」と言われるのです。

 敬老日 孫をあずけて 子は出掛け
 実家とは 無認可無料 託児所か

 親子兄弟の間であっても、自分からしか見えませんから、「来て嬉し 帰って嬉し」の孫をあずかりながら、文句の一つも言いたくなるのであります。
 「正信偈(しょうしんげ ※3)」を見ますと、曇鸞大師(どんらんだいし)のところでは、「惑染(わくぜん)の凡夫」、道綽禅師(どうしゃくぜんじ)のところでは、「一生造悪(いっしょうぞうあく)」、源信僧都(げんしんそうず)のところでは、「極重悪人(ごくじゅうあくにん)」、源空・法然上人(げんくう・ほうねんしょうにん)のところでは、「善悪凡夫人(ぜんあくぼんぶにん)」とあります。
 高僧方は、本願に遇(あ)われて、凡夫の自覚に立たれていたことが示されています。それは、自力の計らい、全部、自分の都合からしか発想しないことの愚かさ、罪の深さを教えられているのでありましょう。

 私は、仏跡をよく訪ねるのですが、初めてインドへ参りました時に、ホテルのロビーの世界地図を見てびっくりしました。地図の真ん中にはインドが描かれていますから、日本は、右端の上に小さく描かれているだけでした。新聞でも放送でもみな自国が中心ですから、日本では日米・日中・日韓ですが、アメリカへ行けば米日、中国では中日、韓国では韓日になるのであります。
 京都の路地は、車の一方通行が多いので、友人が車で訪ねてくださる時には、「家の裏に病院があります」と言います。するとその病院のところまでこられて、電話をかけてこられます。その時は、仕方がありませんから「その裏にうちの家があります」と言いますが、思いはいつも自分が表なのです。
 仏さまの「煩悩具足の凡夫よ」との呼びかけは、自分では気づこうともしない闇、自分では気づけない闇を照らし出してくださるのです。
 それで聖人は、「凡夫はもとより煩悩具足したるゆえに、わるきものとおもうべし」と言われるのでありましょう。

煩悩具足
様々な煩悩をすべてそなえて生きていること。
2 『親鸞聖人血脈文集』
親鸞聖人が門弟に宛てて書いた手紙類をまとめたもの。
3 正信偈
正信念仏偈(しょうしんねんぶつげ)。真宗門徒が朝夕お勤めする親鸞が書き記した漢文の詩。後半の段で親鸞が大切にされた7人の高僧の教えが讃えられている。

松井 憲一
真宗大谷派 善龍寺(三重県)
大谷大学元非常勤講師

『真宗の生活』2019年版
(東本願寺出版)より
仏教語 2025 01