暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 仏教では、「三世(さんぜ)」ということで、私たちの存在を表します。すでに過ぎ去った過去、現に生じている現在、まだ起こっていない未来という三世をもって存在しているということです。
 ただこの三世がお経に説かれる場合、過去・現在・未来と、いわゆる時間の流れに沿って表現されるのではありません。「去(こ)・来(らい)・現(げん)」と表され、過去・未来・現在と説かれています。そこに大切な意味があるのでしょう。
 私の今は、突然降って湧(わ)いたようにあるのではなく、永い歴史のつながりを背景にして今現在があるのです。それは一つの原因に限定できません。様々な原因と条件が縁(よ)り起こってあることです。ですから過去世の全てが今現在の私に集約されていると言ってもよいでしょう。また現在は、この先の未来世が縁り起こる原因や条件となるのです。ですから現世のあり方が、未来世を造ると言ってもよいのでしょう。
 私たちは、たくさんの命を奪い合う戦争を重ねてきました。また文明の名の下に汚染と破壊も行ってきました。それが私たちの歴史、過去世です。その過去の世からこうした悲惨なことを繰り返さないでほしい、この犠牲を無駄にしないでほしいと願われて現在があるのです。
 さらに、私たちの現在に続く未来世から、将来の命を危険にさらさないでほしい、あなたがしていることは未来に責任が持てるのかと問われているのです。
 過去から願われ、未来から問われて、私の現在がある。その私たちの存在の姿が「三世」で表されています。

四衢 亮(よつつじ あきら)氏
真宗大谷派 不遠寺住職(岐阜県)

仏教語 2025 08