著名人の言葉

言の葉カード

 私の母は大学の頃、演劇をやりたかったらしいんです。でも当時は「天井桟敷(さじき)」や「紅(あか)テント」とかのアングラ演劇が盛んな頃でした。それで母のお父さん、僕のおじいちゃんですが、演劇=過激な反体制のものと思ったみたいで、演劇をやることは駄目だって言ったらしく、それで母は演劇ができなかったんです。
 年を取ってから、母は「京都ライトハウス」で、視覚障害者が本に触れ合えるように朗読を録音して、それをお渡しするというボランティアをやっていました。僕は男三兄弟の末っ子で、だから僕が大きくなるにつれて母の子育ての手も空いてくるので、一緒に舞台に連れていってくれたんです。「おやこ劇場」というようなものから「遊◎機械/全自動シアター」、「東京乾電池」、「加藤健一事務所」といった小劇場演劇を一緒に観に行きました。そこで演劇というものに触れました。
 高校生のとき、寺の法要で「蓮如上人(※)物語」を新屋英子さんが一人芝居でやってくださいました。兄の知り合いで同志社大学の演劇サークルの方がお手伝いに来てくれて、そこで初めて学生演劇というものを知り、観に行くようになりました。初めて大学の演劇を観にいったとき、100人ぐらいの小さな小屋で、舞台と客席の距離が近く、エネルギーがダイレクトに伝わってくるのが衝撃的でした。
 演劇にしろ、ドラマや映画などの映像作品にしろ、おもしろいものをつくろうという一点に向かって大人が必死に一生懸命やっているというのがすごいことだと思いますし、その時間がとても豊かで、そこにこの仕事の魅力を感じています。
 舞台は、演者と観客が、同じ時間と空間を共有しているというのがおもしろいなあと思います。それから観客が舞台上のどこでも観ることができる、例えば台詞(せりふ) を喋(しゃべ)っていない映像では恐らく画面に映っていないであろう役者を観ることができるのも魅力だと思います。自分が観劇するときはついついそういった所を観てしまいます。

蓮如(1415~1499)
浄土真宗の中興の祖。

本多 力氏
俳優・真宗大谷派 養蓮寺(京都)

真宗会館広報誌『サンガ』186号より
著名人 2024 11