私たちは、会社や家庭で社会の中で、さまざまな仕事をして生活し生きている。そこには少なからず誇りを持ち役割を担っている自負がある。もし、その仕事がなくなるのだとすれば、すぐに新しい仕事に移ることができるのだろうか。そんなに簡単なことではない。
AI化が進むことによって、私たちの暮らしぶりに大きな変化が訪れることは容易に想像できる。その速度についていけるだろうか。ついていくのだろうか。
ミヒャエル・エンデ作『モモ』の登場人物に、時間貯蓄銀行の灰色の男たちがいる。彼らは街の人々に時間を節約して効率化をうながし「成功すること」「ひとかどのものになること」をすすめ、実際には人々の時間を奪っていく。そうして時間を預けた街の人々は、みんな時間に追われるようになり心もギスギスするようになって、みるみるうちに街から生気が奪われていく。物語は、主人公のモモが仲間たちと、灰色の男たちと対決し時間を人間に取りかえすストーリー。実は、この灰色の男たちとは、実体がなく、いまで言うと“世の中の空気感”みたいなものだ。
ますます進歩発展していく中で、いよいよ人間の存在意味が問われる時代が来ているのだと思う。
不二門 至淨氏
真宗大谷派 流山開教所(千葉県)
真宗会館広報誌『サンガ』161号より
法話 2022 07