『大無量寿経(だいむりょうじゅきょう ※)』というお経では、土地があればあったで所有している土地のために憂い、また、なければないで自らの土地を所有したいと思ってまた憂う存在だと教えています。つまり、人間は有っても無くても憂う存在であることが教えられるのです。何かが不足して憂うばかりではなく、足りても憂うのです。
同じ相続でも、遺産相続と仏教を後世に伝える仏法(ぶっぽう)相続は大きな違いがあります。遺産の相続ももちろん大切です。しかし、人の世に生まれ、人間として空しくない人生を教えてくださった仏さまの世界を身をもって伝えていく仏法相続こそ大切なことではないかと私は思います。
「外を満たせば、内も満たされると思っているが、そんなことでゴマカシのきかないところに、人のいのちの尊さがあるのです」と教えてくださった石川県の松本梶丸先生(まつもとかじまる ※)の言葉が響きます。
本当に満足していく世界を身をもって「今さえ良ければ」「私さえ良ければ」の世界にさよならを告げ、過去と未来に責任をもって現在(いま)を生きぬき、空しくない、手応えある世界があることを後世に伝えていくことこそが、大切な宝になっていくことでしょう。今ほど仏法を相続していくことが求められている時代はないと言っても過言ではないと思います。
念仏詩人の浅田正作(あさだしょうさく ※)さんは、「死ぬことが 情けないのではない 空しく終わる人生が やりきれないのだ」と言われます。
私はこの言葉を心に刻んで生きていきたいと願っています。
- 『大無量寿経/仏説無量寿経』
- 浄土真宗で大切にされる経典(お経)の一つ。
- 松本梶丸(1938~2008)
- 石川県、真宗大谷派僧侶
- 浅田正作(1919~)
- 石川県出身
『仏説無量寿経(ぶっせつむりょうじゅきょう)』
今泉 温資氏
地域同朋の会「往生人舎」主宰
『僧侶31人のぽけっと法話集』(東本願寺出版)より
教え 2021 03