私どもがいちばん大切にしている経典のひとつである『仏説無量寿経(ぶっせつむりょうじゅきょう ※』に、「兵戈無用(ひょうがむよう)」(軍隊も武器もいらない)という言葉が出てきます。それはどういう文脈で出てくるかというと、まずお釈迦さまが、人間のつくるこの世間は「五悪(ごあく)」という5つの大きな問題をはらんでいるということを説いていきます。そして、そうした問題があることをみんなに気づいてもらうために自分は教えを説いているのだとして、その教えが及ぶところは「国豊(ゆた)かに民安(やす)し。兵戈用いることなし」と語られるのですね。しかし、自分の没後はその教えも衰退し、人々はまた悪を犯すようになるだろうから、そのときにはしっかりと仏道を説いてほしいと伝えるのです。
そして、ここが肝心なのですが、お釈迦さまはそれを弥勒菩薩(みろくぼさつ)に向けて説いているのですね。弥勒菩薩というのは、56億7千万年後に兜率天(とそつてん)からこの地上に降りて法を説くとされている未来の仏です。56億7千万年後って、気の遠くなるような数字ですが、言うなればそれは永遠の未来です。つまり、兵戈無用とは、過去から未来へ向けて歴史を貫く永遠の課題であり、その実現に向けて歩んでほしいという願いを、お釈迦さまは未来仏である弥勒菩薩に託したのです。それは、それが実現した未来からいつも現在の我々のあり方が照らされることになるわけです。
- 『仏説無量寿経』
- 浄土真宗で大切にされる経典(お経)の一つ。
『仏説無量寿経』
四衢 亮氏
真宗大谷派 不遠寺住職(岐阜県)
月刊『同朋』2016年8月号(東本願寺出版)より
教え 2021 08