日常会話では、「あのひとは愚痴(ぐち)っぽいね」などと使います。愚痴は「言っても仕方のないことを嘆くこと」ですが、これはもともと仏教語です。意味は「仏さまの真実の智慧(ちえ ※)に暗いこと」です。
人間は「自分のこころ」を信じているので、〈真実〉が見えません。ところが、仏さまは「人間のこころ」を煩悩(ぼんのう)と教えて下さいます。煩悩とは、怒りや欲望の感情のことですが、それは表面的なことで、もっと深い煩悩は、比べられないものを比べて悲しみ、苦しむこころです。煩悩は「比べるこころ」ですから、いつでもひとと自分を比べます。ですから、時には「自分も捨てたものではない」と自惚(うぬぼ)れることもあれば、「どうせ自分なんてダメな人間だ」と自棄にもなります。それを操っているのが「人間のこころ」、つまり煩悩です。ただし、それが煩悩のはたらきだと気付けば、煩悩の束縛から解放されることがあります。「仏さまの真実の智慧」は、私たちの「人間のこころ」を煩悩と教え、真実に背いていると叫び続けているのです。
- 智慧
- 知識や教養を表す知恵とは異なり、自分では気づくことも、見ることもできない自らの姿を知らしめる仏のはたらきを表す。
武田 定光氏
真宗大谷派 因速寺住職(東京都)
仏教語 2020 10