暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 「流行」はファッション業界や医学界でよく使われます。「流行性感冒(かんぼう)」と言えば、インフルエンザのことで、知らず知らずに罹(かか)っていることがあります。しかし、この「流行」はもともと仏教語です。親鸞聖人は「流行は、十方微塵世界(じっぽうみじんせかい)にあまねくひろまりて、すすめ、行(ぎょう)ぜしめたまうなり」(『唯信鈔文意/ゆいしんしょうもんい』)と用いています。十方微塵世界とは、私たちが目にする世界すべてという意味ですから、この世に「南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)」が流行しない存在はないというご理解です。南無阿弥陀仏と言えば、私が称(とな)えるものと思っていますが、親鸞聖人は全世界に流行して、あらゆるものが念仏(ねんぶつ)させられるとご覧になっています。
 たとえばここに一匹のゴキブリがいるとします。ゴキブリがゴキブリになるまでのいのちの背景を考えてみましょう。ゴキブリの親があり、その親にもまた親があります。そうやっていのちの背景を見ていくと、この地球上にいのちが誕生したところまで遡(さかのぼ)れます。ゴキブリもゴキブリに生まれたくてゴキブリになったわけではありません。それは私の生まれ方と同じです。ゴキブリがお念仏しているということは、阿弥陀様にすべてをしてゴキブリとして誕生したということです。私も阿弥陀様にして誕生したのです。それが身体でする念仏です。私たちが口で称える前に、すでに南無阿弥陀仏は身体に「流行」していたのです。それに気づいたとき、念仏せずにいられない自分にさせられているのです。

武田 定光氏
真宗大谷派 因速寺住職(東京都)

仏教語 2020 06