2020年睦月(1月)の言葉

仏教の教えについて

言の葉カード

 蓮如(れんにょ ※)は、「仏法(ぶっぽう)には、明日と申す事、あるまじく候(そうろ)う。仏法の事は、いそげいそげ」と、折にふれて述べたと伝えられています。世間的な豊かさや、幸せというものを求めるのではなく、人間の根源的な課題を解く仏教の教えによく聞け。それには一刻の猶予もならないと、蓮如は教えているのです。この言葉には、釈尊(しゃくそん/お釈迦さま)の出家と共通する気持ちが込められています。まず何をおいても仏法を聞くようにという勧(すす)めから、私たちは日頃の忙しさに紛れて忘れてしまっている大切な出発点を教えられます。たとえ、どれほど豊かで華やかな生活が実現したとしても、それだけでは満足できないものを人間は持っているからです。
 その意味でいえば不安や空しさを感じるということは、とても大切なことなのです。不安や空しさは、私が事実を事実として受け止めていない、私の生活の基本のところに嘘があることを教えてくれているからです。足下の事実を忘れて見果てぬ夢を貪(むさぼ)っていきたいのが、人間の偽らざる心情でしょう。しかし、私たちが生きている現実は、そのような私の思いにはかかわりなく進んでゆきます。
 どのような生き方をするか、自分の生活をどのように豊かにするかということが、私たちの日常の問題ではありますが、それ以前に、老・病・死の身として生まれてきたという私自身の事実があります。釈尊の教えは、徹底的に事実を事実として見つめることによって、人間を不安と恐れから解放する教えです。それは、「仏法には、明日と申す事、あるまじく候う」と言われるように、これからのこと、年老いてからのこと、明日のことではなくて、私たちが今ただちに目覚めるべきことなのです。

蓮如(1415~1499)
室町時代の浄土真宗の僧侶

『蓮如上人御一代記聞書』(蓮如)

大谷大学HP「きょうのことば」1997年1月より
教え 2020 01

暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 「これは一大事だ」と私たちは使います。この「一大事」は仏教語です。意味は「最も大切な事」等です。しかし「何が人生の一大事なのか」と問われると、はたと立ち止まらざるを得ません。私たちは、やがて人生が終わることを知って生きています。ゴールが「死」だとすると、いまやっている仕事や勉強は何のためなのでしょうか。これは「人生の意味とは何か」という問いになります。この問いに釘付けになり、お釈迦さまは「出家」されました。これはお釈迦さまの時代だから可能なことで、現代の私たちには「出家」は不可能です。
 また浄土真宗は「出家」をする必要のない教えです。「出家」をしたひとだけが助かる教えであれば、それは誰もが助かる仏教ではありません。いまの仕事を続けながら、家庭生活を続けながら、その問いをごまかさずに答えを求め続けることが「一大事」なのではないでしょうか。「問い」の中に必ず答えはあるのです。

武田 定光氏
真宗大谷派 因速寺住職(東京都)

仏教語 2020 01

僧侶の法話

言の葉カード

 世の中に生きているとさまざまな物差し、価値観が押し寄せてきます。例えば病気になった人にはものすごく冷たい。あるいは歳を取って働けなくなったりすると、ものすごく冷たい。そんな世の中ですね。「働けない者がいつまで生きているのだ」と言わんばかりの雰囲気です。そうすると、お年寄りはだんだん「自分は生きておったらいかんのかな?」という気持ちにさせられてくるのです。
 それに対して、「そうではない。世の中の物差しのほうが実は歪んでおるのだ」と教えてくださるのが仏法(ぶっぽう)です。一人一人、誰とも代われないいのちを最後の最後まで生ききっていくことが何よりも大事なのです。そのことを仏さまは照らし出してくださるし、その教えに触れるからこそ現実を一歩一歩歩(あゆ)む勇気をいただくのです。
 浄土の教えはあの世の話ではありません。あの世に行ってからのことではなくて、この世を生ききっていくための教えなのです。この世が濁(にご)っているからこそ教えが要(い)るのです。大事なものが見えにくいからこそ、この教えが必要なのです。

一楽 真氏
大谷大学教授

『この世を生きる念仏の教え』(東本願寺出版発行)より
法話 2020 01

著名人の言葉

言の葉カード

 いつもと変わらぬ日常を何となくすごしてしまった、という経験はありませんか? 仕事に行く、学校に行く、家事を行う、人と会う…。一つひとつがルーティーンとなり、就寝前に「はぁ」とため息。朝になれば当たり前の日常がまた始まる。しかしよく考えてみると、電車が動かないと、家の電気が点かないと、約束した相手が来ないとそれらは始まりません。突き詰めれば、朝を迎えて私の目が覚めないと、その当たり前は始まらないのです。
 毎日を忙しく生活していると、全てのことが当たり前となってしまいがちですがそうではありません。裏を返せば、小さな「おかげさま」の連続で成り立っているのです。そのことに気が付いた時に、「ありがとう」という気持ちや言葉がポッと出てくるのでしょう。一日一日を丁寧に生きる、そんな気づきを与えてくれる言葉です。

ゲーテ
詩人・劇作家(ドイツ)

著名人 2020 01