2020年師走(12月)の言葉

仏教の教えについて

言の葉カード

 お寺などで、仏さまのお話を聞いた後の感想はさまざまです。「仕事の参考になります」「聞かせてもらっているから家のなかが円満です」「いつ死んでもいいという覚悟ができるような気がします」など。このように、私たちは日ごろ、仏さまの教えを聞いても、自分にとって都合のいいようにすりかえているのではないでしょうか。
 そのことを、第八代蓮如上人(れんにょ ※)は、「意巧(いぎょう)に聞く」(心巧みに聞いていく)と指摘されています。私たちが仏さまの教えを聞くということは、自分の都合を主とした「ものさし」を問い直させていただくことにあるのです。
 私たちは各々にさまざまな問題を抱えています。それらのことをご縁に仏さまの教えを聞き、互いに話し合うことで、ごまかしようのない自分の姿が照らし出され、自分のものの見方や考え方、発想が問い直されていくのでしょう。その歩みを賜るとき、「ものさし」のいらない世界、お互いがあるがままに出会っていける世界をいただくことができるのです。

蓮如(1415~1499)
室町時代の浄土真宗の僧侶

『蓮如上人御一代記聞書』(蓮如)

月刊『同朋』2015年6月号(東本願寺出版)より
教え 2020 12

暮らしの中の仏教語

言の葉カード

 「因縁(いんねん)をつける」など、ちょっと物騒(ぶっそう)な使い方もありますが、もともと「因縁」は仏教語です。物事が成り立つ直接的な条件を「因」と言い、間接的な条件を「縁」と言います。例えば花が咲くための「因」は種ですが、「縁」は日光や水となります。その「因と縁」が関係し合って花が咲きます。この世のあらゆる出来事は「因縁」によって成り立っていることを仏教は教えます。
 ところが、その「因」を突き詰めていくと、たとえ種であっても、種を生みだした前の世代があり、それを遡(さかのぼ)っていけば、やはりすべては「縁」で成り立っているのです。決してもともとの「原因」が実体的にどこかにあるわけではありません。それは世界を分析して事実を述べているに止まりません。今、私が人間としての生命を得たことすら、何十億年にも渡る「因縁」の結果としてあるのです。それは自分の「思い」を超えた不可思議(ふかしぎ)な事実です。人間に生まれたいと思って人間に生まれた人間はひとりもありません。気が付けば、「思い」を超えて、この世に唯一無二の存在として、自分は存在せしめられていたのです。

武田 定光氏
真宗大谷派 因速寺住職(東京都)

仏教語 2020 12

僧侶の法話

言の葉カード

 「人に迷惑をかけてはいけない」。この言葉を知らない人はいないと思います。私たちが生活していくうえで、これほど大切な教えはないでしょう。この教えは、親から子へ、子から孫へと、何十年も、それこそ何百年も前から伝えられています。ところが、この教えは本当に正しいのでしょうか。親鸞聖人は、この教えに対して、「ちょっと待ってください。それは本当に正しいのですか」と問うてくるのです。
 それでも、私たちは「迷惑をかけたらアカン」と小さなころから言われて育ちました。自分が大きくなってからは、子どもに対して「お前も中学生になったんやから、これからはひと様に……」。あるいは、仕事で失敗した同僚や部下に、この言葉を口にしたり、あるいは心の中で思ったりしたことは一度や二度ではないでしょう。

 ここでちょっと足を止めて考えたいのです。「迷惑かけたらアカン」と私たちは人に対して言いますが、もしこの言葉を自分に言われたときはどう思うでしょう。素直に「そうでした。私は皆様に迷惑ばかりかけていました。申し訳ございません」と、心の底からあやまれるでしょうか。あやまることができたら、たいした人物だと思います。たいがい、あやまるどころか気を悪くするでしょう。
 私たちは、親が子どもにこの言葉を言うことは、当たり前と思っています。しかし、子どもから「お父さん、迷惑かけたらアカンやろ」と言われたら、お父さんは形相を変えて怒り出すかもしれません。
 人に言うだけ言って、反対に自分が言われて腹の立つことを、人には言う。そして、人を腹立たせることは、人に迷惑をかけることです。何かおかしいです。極端な話をすれば、本当に誰にも迷惑をかけずに生きていこうとするならば、離れ小島にでも行って一人で暮らすことです。でもそうなったら、肉親や友人は「アイツ生きてるやろか」と、たいへん心配します。心配をかけるほど迷惑なことはありません。
 そんなことを考えますと、人間とは他の人に迷惑をかけずには、生きていけない存在だと知れるのです。

 「ひと様に迷惑かけたらアカン」。これは道徳の言葉です。しかし、これを真宗風に言い直したら、「ひと様に迷惑ばかりかけている自分に気付きなさい」となるのでしょう。このような謙虚さを親から子、子から孫へ伝えていきたいものです。

河合 清閑氏
真宗大谷派 僧侶(石川県)

「スカッ!!と念仏」※絶版(文芸社発行)より
法話 2020 12

著名人の言葉

言の葉カード

 年も暮れると、「今年はどんな年だったかなぁ」と振り返るものです。楽しかった記憶よりも、苦しかった記憶や嫌な記憶のほうがなぜかよく覚えています。「来年こそは!」と過去の記憶を上書きしたくなりますね。
 ところで「蓮の花」はどんな所に咲く花かご存知でしょうか? あるお経には「卑湿(ひしつ)の淤泥(おでい)に、いまし蓮華(れんげ)を生ず」とあります。平たくいえば、空気が澄み渡り、水の清らかな場所ではなく、湿った泥のなかであっても、力強く、堂々と花が咲くということでしょう。
 いろんなことがあった2020年。あなたの人生にはどんな花が咲きましたか?

ウォルト・ディズニー
アニメーター(アメリカ)

著名人 2020 12